2 薬物乱用防止教育充実の背景

高等学校学習指導要領の改定

平成元年三月十五日、高等学校学習指導要領の改定は、平成六年度から学年進行で実施することになりました。高等学校の保健の改善の基本方針は、保健については健康教育の一層の充実を図るため、健康科学を基盤として自他の生命を尊重し、生涯を通じて健康で安全な生活を送るための基礎を培う持観点から、小学校、中学校および高等学校を通じて、健康・安全に関する基礎的・基本的な知識を理澗解させ、児童生徒が発達段階に応じて自主的に、健康な生活を実践することのできる能力と態度を育成することを重視して内容を精選する、ということになりました。改善の具体的事項では、個人生活のみならず社会生活における健康・安全に関する事項に重点を置酒いて、心身の機能、精神の健康、交通安全、環境汚染と健康、生活行動と健康および家庭や社会生活刊における健康に関する事項、で構成することになりました。その際、精神の健康の保持増進、食生活峨などの生活行動と疾病予防、薬物乱用などと健康、応急処置に関する事項などの一層の充実が図られ肘るよう配慮すること。なお、生徒の興味・関心や生活体験などから、必ずしも理解が容易でないと指摘されている内容、たとえば、心身の機能における大脳と精神機能、職業と健康における労働安全衛生に関する法律・制度等については軽減する、としています。

また、現代社会と健康では、わが国の疾病構造や社会の変化に対応して、健康を保持増進するためには、個人の適切な生活行動が重要であることを理解させなければならない、とあります。生活行動と健康では、健康を保持増進するためには適切な食事、運動、休養が重要であることを理解させること。更に、喫煙や飲酒、薬物乱用と健康との関係、医薬品の正しい使い方についても理解させることになっています。

小中高校に配布された保健指導の手引き

(財)日本学校保健会においては、昭和六十一年三月「小学校喫煙防止に関する保健指導の手引』、六十二年三月『中学校喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する保健指導の手引』、六十三年三月『高等学校喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する保健指導の手引』をそれぞれ作成配布し、多くの学校で活用されてきました。
しかし、この間、喫煙・飲酒・薬物乱用の問題は、ますます大きな社会問題となってきています。このため、文部省は平成元年の学習指導要領の改定の際に、中学校および高等学校の保健体育に「喫煙・飲酒・薬物乱用と健康」に関する指導を位置づけ、以来、これに従って指導されるようになっています。
これらのことを踏まえ、平成七年三月『中学校喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する指導の手引』、八年三月『高等学校喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する指導の手引』、九年三月『小学校喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する手引』について、全面的に内容の検討を行ないました。そして、発行されたこれらの改訂版の特徴は、学習指導要領に位置づけられた教科保健体育の科目保健における指導を中心に、関連する教科、特別活動等における指導例で構成され、指導方法では、課題学習やロールプレイングなど意思決定のために有効な手法を取り入れたことにあります。また、参考資料には、最新の知見が盛り込まれています。

文部省通達と総理大臣の挨拶

更にまた、文部省からは次のような通達が各学校に送られ、内容の周知と一層充実した指導が行なわれるよう求められました。
「青少年の大麻薬物乱用防止について」文部省体育局学校保健教育課長 北見幸一(平成七年九月八日)

これは、警察庁生活安全局薬物対策課長の要請を受けて通達されました。
「覚せい剤等薬物乱用防止対策の推進について」
文部省初等中等教育局長 辻村哲夫
文部省生涯学習局長 草原克豪
文部省体育局長 佐々木正峰(平成八年七月九日)
これは、平成八年度薬物乱用防止対策実施要項が、薬物乱用対策推進本部により決定されたのを受けて送付されました。薬物乱用対策推進本部長は内閣官房長官で、この通達の要旨は以下のとおりです。

「覚せい剤等薬物乱用者の増加傾向に対処するため、当本部ではかねてからその乱用防止に取り組んできたところである。しかしながら、覚せい剤の乱用が依然として高水準で推移していることに加え、大麻を初めコカインなど他の薬物乱用も拡大する傾向にあり、とりわけ次世代をになうべき青少年層を中心に一般市民層への浸透が見られるなど、憂慮すべき事態にある。また、世界の多くの国々においても、ヘロイン、コカインなどの薬物乱用が深刻な社会問題となっており、国際的な薬物乱用防止のための協力が求められている。
このような事態に対応するため、当本部では平成八年度において、下記の通り薬物乱用防止に関し、年度を通して実施すべき事項を策定し、関係機関・団体と連係してこれを強力に推進するとともに、薬物乱用防止強化月聞を指定し、この期間中に集中して対策を実施し、実効を期する事とする」
平成九年一月二十一日には総理大臣が挨拶し、最近の厳しい薬物情勢に対して、内閣官房長官を本部長として総理府に設置されていた薬物乱用対策推進本部を、内閣総理大臣を長とする本部に格上げして内閣に設置し、政府を上げて薬物乱用対策を強化すると発表しました。
その中で、最近の少年の薬物事犯の急増を重く受け止め、特に少年の薬物乱用防止のため、
一、覚せい剤等の供給源に対する取締の強化
二、薬物乱用少年の発見・補導の強化
三、教育委員会・学校等との連係の強化
四、家庭・地域に対する広報啓発の強化

などの対策を実施する、としています。
このように、薬物乱用防止教育は、今もっとも緊急性の高い教育課題となっています。麻薬・覚せい剤など薬物乱用のない社会にするには、一人一人が乱用の恐ろしさを理解し、学校・家庭・地域が協力して乱用の防止に努める必要があります。
「No, Absolutely No」(日本)
「Yes To Life, No To Drugs」(国連)
「Say No To Drugs」(アメリカ)
これらは、麻薬撲滅に取り組む各国の合言葉です。