アルコール・薬物を保健体育で教えるコツ――六~七時間の授業展開

保健体育教師よ頑張ろう

わが校では従来から、保健体育の授業でアルコールの害についての指導を実施しています。その中でいくつか独自の方法も試みており、かなり満足すべき成果を上げています。そこで、その授業の模様をここで皆さんにご紹介したいと思います。
さて、保健体育の授業は、当然体育の教師が行なうわけですが、われわれ体育教師は、いつもトレパンに体操着という印象が強く、その上この格好で教壇に立って授業を進めるのは、われながら締まらない気がします。
そこで私は、保健体育の授業には気分を一新して、白衣を着て教室に向かうことにしています。すると、生徒たちもこころなし、ボールを小脇きに号令をかけている時とは違った表情で私を迎えてくれるような気がします。とはいえ、私のほうは、教壇に立っても運動場で身につけた大声は少しも変わらないのですが。
ところで、多くの方々は体育の先生というと頑強で病気しらず、健康そのものと思っておられることでしょう。しかし、私の見たところでは必ずしも健康的とは言えない先生が多いのです。その代表選手が、授業が終って職員室へ帰ってくるなり、たばこをプカプカやり始める先生です。酒豪もいます。私自身はたばこは吸いませんが、酒に関してはあまり大きいことは号一守えません。むちゃ飲みこそしないものの、時には休肝日と定めた日につい一杯ということもあるからです。生徒に健康教育をする立場のものとして、これは反省しなければなりません。自分も含めて、体育教師自身の意識改革がまずもって求められることかもしれません。

アルコール・薬物には七時間かけよう

現在、わが校では保健体育の授業を週一回ずつ一、二年生で履修しています。以前は二、三年でやっていたのですが、三年になると授業はほとんど二学期で終ってしまいます。時間が足りず、勢い駆け足で講義を進めざるをえない。そこで私が着任した年から、一、二年でやるようにプログラムを変更してもつらたのです。
保健体育で教えるべきことは数えきれないほどあります。その中で、私は「たばこ」と「アルコール」「薬物」の問題にかなりの比重を置いています。
参考までに私の授業のおおざっぱな割り振りを申し上げますと、「たばこ」に三時間、「アルコール・薬物」に六時間位を当てています。アルコールと薬物は、六~七時間の中で同時進行させながら教えます。別々に指導するよりずっと効率がいいし、生徒もより具体的に理解できるからです。六~七時間というと一年の実質的な時間数からみるとおよそ四分の一も割くことになり、少々取り過ぎと思われるかもしれませんが、しかし、どう考えてもこれくらいは必要なのです。
アルコールは現在、生徒たちにとってかなり身近かなものであり、そして同時に、大変危険なものでもあります。現在は危険でなくても、将来危険になる可能性もあります。そこでなぜ、どこが危険なのかを教えるためには、単に「飲み過ぎるとアルコール依存症や肝硬変になって早死するぞ」と、脅しを掛けるだけでは抑止力になりません。「だれでもそうなるとは限らないんだから、自分はならないほうにかけて飲む」といわれれば、はいそうですか、となってしまう。第一「自分の身体なんだから、自分の勝手だ。先生の知ったことか」といわれればそれまでです。
生徒にそんなふうにいわれて戸惑わないためには、どうしても六1七時間が必要なのです。これだけの時間があれば、生徒の頭にアルコールの本当の姿がとことん叩き込めます。メーカーの宣伝文句でなく、友人の甘い誘いの言葉でもなく、父親たちの考えているようなお酒の効用でもない、本当の姿です。ところがその結果、ごくたまには私が飲み過ぎて、翌朝学校で生徒たちにここぞとばかりお説教をくらい「ごめんなさい」と謝るはめになることもあるのですが。
印象的な成果があります。アルコールの授業を終えて数カ月たった頃、今度は結婚生活をテーマにした授業の時のことです。私が授業に入る前、「理想の結婚相手の条件を、幾つでもいいから書いて出しなさい」と生徒たちに言って用紙を配ったところ、年収についての条件を厳しく上げたもの、親との別居が条件というもの、土地付き家付きが条件というもの、中には性的能力について注文をつけるものまであって、毎日接していてそれなりに生徒のことは理解しているつもりでありながら、なるほど現代っ子というのはこういうものかと今更ながら感心したりあきれたりしたのでした。
ところが、予想外のことがあったのです。それは、「毎晩お酒を飲む人は避ける」、「飲み過ぎない人」、「飲酒しない人」、「酒をたくさん飲む女性はだめ」と。あれ、と思ったら、出てくる出てくる、かなりの生徒が酒に関する条件を付けているのです。また、「たばこを吸わない人」という答えも大変多く、これなども授業の成果の表れではないかと、読みながらひとりほくそ笑んだことでした。

春休みの「課題」から授業は始まる

さて次は、一年間のどの時期にその七時間をとるかです。この六~七時間は、もちろん連続していなければ意味がありません。前の授業でやったことを生徒が忘れてしまっては、話を進めるうえで支障をきたすし後で述べる資料の保存にも問題が出てきます。
ところが連続して六~七時間とるとなると結構難しい。学校行事などでつぶれることも多いし、月曜に授業があるクラスなど、代休のあおりで一カ月も授業ができないこともあります。しかし、のびのびになった挙旬、途中で夏休みや冬休みに突入してしまうのは、何とも具合が悪いのです。
そこで私の場合、一学期の最初の授業から早速アルコールの授業を始めます。それでも何だかんだと授業が流れて、結局は夏休み直前までかかってしまいます。休み開けすぐに始めるのには、もう一つ理由があります。それは二年生の場合ですが、新学期が始まる前の休みを有効に使って、私は生徒に一つ課題を与えることにしています。それは、休みの聞に、新聞や雑誌を読んでアルコール、薬物に関する記事を集めてスクラップブックを作ってもらうのです。

1時間でもこれだけ教えられる
アルコールで4時間、薬物で3時間とるのは無理、という声も多い。そこで、1時間でも展開可能なアルコールの授業を表にしました。できれば2時間とって、パッチテストやビデオ、ディスカッションなど生徒が参加し実感できる部分を盛り込むとよいでしょう。なお、ここではアルコールだけを取り上げたが、薬物については中学でシンナーをぜひ、高校ではシンナー・マリファナ・覚せい剤jを扱ってほしい。

「中学」ポイントはアルコールの急性影響と、未成年者の飲酒の害

中学生の飲酒実態 どんな理由でどれくらい飲んでいるか。事前に「わが校の飲酒実態」をアンケト調査しでもよい。
酔いとはなにか 理性を司る大脳のコントロールが「マヒ」して酔いを感じる。アルコール血中濃度が高まるにつれ脳のマヒは進行。
急性アルコール中毒・イッキ飲みの危険 泥酔状態を過ぎるとさまざまな死の危険が。実例を話しながら生徒によく実感させる。
飲める体質 飲めない体質 アルコールは体内でどのように分解されるか。遺伝による体質の違いをノマッチテストで実感させる。
未成年者の飲酒の 若い時代はしらふでストレスと立ち向かうことを覚える時
デメリット 期。飲酒に逃げることの危険。
未成年者飲酒禁止法 未成年者を罰するのではなく守る法律。

「高校」ポイントは、アルコールの慢性影響と、社会的視点

高校生の飲酒実態 どんな理由でどれくらい飲んでいるか。事前に「わが校の飲酒実態」をアンケト調査しでもよい。
アルコールは「薬物」 依存を引き起こす「薬物」とは。
身体への影響 肝臓の病気、その他の障害について。
アルコーノレ依存症 依存症は長年飲み続けるとかかる病気。治療で回復する。
女性・若者の飲酒増加 飲酒増加の背景。CM、自販機問題など。
飲酒の女性への影響 女性は男性の半分の飲酒期間で、肝硬変や依存症に。妊娠中の飲酒はFAS(アルコーノレ胎児性症候群)の危険が。

スクラップブックに関しては、たばこの授業の場合も同じ方法をとっています。夏休みの宿題としてスクラップ作業をやってもらい、生徒はそれぞれ自分なりのたばこの情報を持参して授業の席に着くことになります。こうしたやり方も、生徒が進級するにつれて次第になれてきて、なかなか手の込んだスクラップブックも登場するようになります。「学生の飲酒」、「飲酒と交通事故」、「喫煙と飲酒の関係」、「シンナーと麻薬」、「外国での出来事」、そのほか、テーマごとにそれぞれ自分なりに整理して、それぞれの記事に細かい字でコメントを書き込んだ優秀作もあります。面倒なようですが、やらせてみると生徒たちも結構楽しそうで、毎朝父親と新聞を争って読んだ、とうれしそうに報告する生徒も出できたりします。ちなみに、宿題を提出しない生徒はこれまで一人もいません。
春休みというとたった二週間の短い期間ですが、アルコール・薬物に関する記事はほとんど毎日のように載っています。前年の夏休みのものと合わせると結構な厚さになります。貴校でも一度やってみてはいかがでしょう。
生徒の作ったスクラップブックは、私が大急ぎで目を通した後に一回目の授業で返却します。これは、これからの授業の大切な資料となります。それぞれの授業のポイントで、関連のある記事を生徒が捜し出して発表しあいます。たとえば、「未成年と飲酒」についての授業で、「このテーマで何か思いつくことがあるか」と聞くと、生徒はすかさず自分のスクラップブックの中から「大学生がコンパでイッキ飲み。急性アルコール中毒で死亡」の記事を見つけ出して読みあげます。そこで私は、「イッキ飲みの危険について」から入ることにします。
このようにして生徒は、教師の話と自分で前もって得た情報とを絶えず照らし合わせることができ、問題をより身近なものとして考えることができるようになります。そしてまた、授業への興味を持続させるためにも極めて有効な方法です。なお、六1七時間の授業の構成は、表にしてありますので貴校での授業計画の参考にご利用下さい。

表1「アルコール・薬物」7時間の授業の展開

I 薬物依存の特徴
依存性薬物の分類と特徴とは?
アルコーノレは危険な「薬物」だ
すべての薬物は精神依存をきたす
なぜ人は薬物を求めるのか?
II アルコールの害
酒を飲むとどうして酔うのか?
アルコールが体や心に及ぼす影響
家庭や社会生活に及ぼす影響
飲める人と飲めない人がいるのはなぜ?
Ⅲ 未成年者と飲酒
若いときの「自己実現」について考えよう
アルコールが脳に与える影響
男性・女性の生殖機能に与える影響
IV 女性と飲酒
女性の飲酒が急増している
かっこいいお酒のCMのターゲットは誰?
女性はなぜ「酒に弱い」のか?
飲酒が胎児に与える影響は深刻男の子もちゃんと知っておこう
Ⅴ シンナの危険
こんなに身近にある落し穴
シンナは「ゲイト・ウェイ・ドラッグ」
VI マリファナの危険
世界でもっともポピュラーな薬物
「マリファナはタバコよりまし」はウソ
VII 覚せい剤の危険
若者や女性も狙われている
最後に
薬物の誘惑に負けないために「自己実現」の人生を楽しもう